国内の自社工場で仕立てることがオンリーのオーダースーツ、「テーラーメイド」のこだわりだ。理由はほかでもない、ブランドのコンセプトである”ブレない品質”を実現するため。
自社工場の名は、佐賀県武雄市にある「オンリーファクトリー」。なぜ、この工場でなければならないのか? その答えは、熟練職人・“武雄三人衆”に象徴される技術力にあった。
縫製の匠 岩本雅也「人体の曲線をイメージしながら縫う。だから、着心地が違うんです」
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ミシンを自在に操る 縫製の免許皆伝
岩本雅也(45)
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いわもと まさや●武雄市出身。縫製の工程全体を手がけるエキスパート。人体の曲線に沿う立体縫製は、工場内でも右に出る者がない。大の釣り好きで、休日は自身の船で海へ出る。
スーツの縫製は、ただ生地同士をきちんと縫い合わせればいいというものではない。着心地がよくなるように縫い目を緻密に、かつ人体の曲線に沿うよう立体的に縫い上げる必要があるのだ。岩本さんは縫製工程の全体を見ているが、おもに手がけるのは、身頃や袖といったパーツをひとつにまとめて縫い上げる「本流(ほんりゅう)」と呼ばれる工程。 「頭の中で人体のカーブをイメージしながら縫うのが大切です。さらに湿度や糸によって変化する生地の収縮率を計算したり、箇所に応じてテンションを調整したりする必要もあります。何より本流はみんなが縫い上げたパーツをひとつにする重要な工程なので、長年やっていても緊張感を感じます」 各工程のミスを見つけるのも岩本さんの仕事。 「とにかく何度もチェックを繰り返すこと。これが品質の向上につながります」
- 「縫製は繊細な作業なので、体調や精神状態も影響します。だから、日々、心身のコンディションを整えることにも努めています」
- 「梅雨の時期などは湿度によって生地が伸びてしまう。その伸びも頭に入れて縫わなければいけません」
立体の匠 福田恵介「テーラーメイドの立体感は 丹念な仕上げの賜物です」
工場の首脳陣が信頼を置く 若きお化粧師
福田恵介(31)
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ふくだ けいすけ●武雄市出身。地元の高校を卒業後、スーツ作りの道へ。アイロン技術の非凡な才能を見出され、若くしてお化粧を任される若手のホープ。趣味は釣りで、最近はイカ釣りに夢中。
縫製後のスーツをアイロンでプレスする工程は、シワを伸ばして生地の目を整えるだけなく、人体の曲線に沿うように立体感を生み出す重要な工程だ。オンリーファクトリーでは、パーツごとにアイロンでのプレスを行い、立体感を高めているが、福田さんの役目は「お化粧(おけしょう)」と呼ばれる最後の仕上げ。 ベテランの職人のもとで技術を磨き、7年目にこの役目を任された。この作業には、手先の技術はもちろん、頭の中で人体の構造を正確にイメージできる感覚が欠かせないという。 「立体感は着心地や見栄えを大きく左右する要素です。私たちの業界では、スーツの生地の目がきりっとして見栄えがいいことを“ツラが立つ”というんですが、そんなスーツを目指して仕上げています」
- 「工場には定期的にお客様の声が届きます。よろこびの声を聞いたら、この仕事をやっていてよかった、と思います」
- 手間のかかる工程だが、マシンを使ったプレスよりも、手持ちアイロンのほうがより人体の曲線に近くなるという。「オンリーのスーツは立体感が生み出す見栄えのよさもウリのひとつ。特にお客様の目につきやすい衿や袖の仕上げには気を遣います」
湿度の匠 喜多和美「見栄えがよくて、型崩れがしにくい。その秘密は徹底した加湿にあります」
20年以上のキャリアを持つ湿度の名ディフェンダー
喜多和美(60)
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きた かずみ●嬉野市出身。工場の創業時から在籍。スーツ製造の幅広い知識と技術を持つベテランは湿度の管理を担当する。趣味はサッカー観戦で、サガン鳥栖のサポーター。
湿度へのこだわりは、オンリーファクトリーの最大の特色だ。 「生地は乾燥すると状態が不安定になり、そのまま縫製すると、型崩れや縫製不良の原因になります。たとえば、雨の日などに生地が伸びると、芯地とズレて、型崩れが起きることも。ですから、スーツを作る段階で、生地を念入りに加湿してリラックスさせておくことが大切なんです」 そのため、工場内の湿度は特殊な加湿器によって常に60%に保たれている。これは工場の絶対ルールで、喜多さんは20年にわたって湿度の管理を行っている。 「工程でも、縮絨をはじめ、生地の裁断後、芯据え(前身頃と芯地をつける作業)の前、見返し据え(前身頃と見返しを仮留め)の前という4工程で加湿を行っています。こうすることで、生地の豊かな風合いが際立つ、型崩れのしにくいスーツが出来上がります」
- 裁断後の生地に純水を吹きかける。「このひと手間が仕上がりに影響します」
- 「芯据えと見返し据えの前にも湿気を与えます。一点一点職人が手で作業しています」
- 工場内の加湿には、半導体の工場で使われるウェットマスター社の超音波加湿器を使用している。「湿気の分子がタバコの煙より細かいため、スーツや機械に水滴がつきません。天井に10台設置しています」