ONLY FACTORY

国内の自社工場で仕立てることがオンリーのオーダースーツ、「テーラーメイド」のこだわりだ。理由はほかでもない、ブランドのコンセプトである”ブレない品質”を実現するため。
自社工場の名は、佐賀県武雄市にある「オンリーファクトリー」。なぜ、この工場でなければならないのか? その答えは、熟練職人・“武雄三人衆”に象徴される技術力にあった。

九州北西部の佐賀県武雄市は武雄温泉や御船山などを擁する風光明媚な地。約5万人の人々が暮らす静かな街に「オンリーファクトリー」はある。ステンドガラスがあしらわれた白い建物の佇まいは、工場というよりもアトリエという言葉がしっくりくる。

縫製、立体、湿度。
これがブレない品質を支える3本の柱

「オンリーファクトリーは、オンリーのテーラーメイドを専門に手がける工場です。現在は、50人あまりの職人が勤務し、大体1日に60着を目標に生産しています」 工場を案内してくれたのは、製造本部長兼工場長の山口多加志さん。

「オンリーファクトリーのこだわりは縫製、立体、湿度。これらの要素が三位一体となって、高品質のスーツが生み出されます。そしてそれぞれの要素は、職人の技術力によって支えられています」

職人たちの特性を熟知した工場のブレーン

オンリーファクトリー 製造本部長兼工場長
山口多加志(65)
やまぐち たかし●武雄市出身。職人の配置や作業の段取りを的確に行う判断力と幅広い工程をサポートできる技術をあわせ持つユーティリティ工場長。トラッドファッションと陶芸をこよなく愛する。
  • 工場内にはイスがない。「1人の職人が平均して3~4工程を担当するため、次のプロセスへスムーズに移動できるよう、基本的に立って作業を行っています」

  • 生地の収納庫には約300種類の生地を常備。「ロールの状態で届いた生地をいったん広げ、畳んで収納しています。こうすることで生地自体の重みによって、生地がリラックスするんです。このひと手間で、布地の目が整い、仕上がり後の歪みが少なくなります」

  • 自動裁断機を使用せず、職人がロータリーカッターで裁断します。 熟練の技術で難しい生地の柄合わせもミスがなく、ハサミで裁断するより素早く、かつ正確に作業できます。

  • 場内にはコンピュータ制御の大型マシンはほとんど見当たらない。およそ200を超える工程の多くは職人が手作業で行う。「最新鋭の設備に投資するよりも、若い世代へ技術を継承することに力を注ぎたい」。ミシンもきちんと手入れして、長年使い続けるのがこだわり。

  • オンリーファクトリーの前身はさまざまなブランドのスーツ製造を手掛けていた実力派工場。2004年にオンリーの自社工場になってからは、テーラーメイドだけを手がけている。

  • ディスプレイには完成したスーツの数がリアルタイムで表示される。この工場だけで年間2万着ものスーツを生産している。

  • 工場内には若い職人の姿が目立つ。この女性は将来を期待される縫製職人。難度の高い袖付けを流れるような手つきで行っていた。

縫製の匠 岩本雅也「人体の曲線をイメージしながら縫う。だから、着心地が違うんです」

ミシンを自在に操る 縫製の免許皆伝

岩本雅也(45)
いわもと まさや●武雄市出身。縫製の工程全体を手がけるエキスパート。人体の曲線に沿う立体縫製は、工場内でも右に出る者がない。大の釣り好きで、休日は自身の船で海へ出る。

スーツの縫製は、ただ生地同士をきちんと縫い合わせればいいというものではない。着心地がよくなるように縫い目を緻密に、かつ人体の曲線に沿うよう立体的に縫い上げる必要があるのだ。岩本さんは縫製工程の全体を見ているが、おもに手がけるのは、身頃や袖といったパーツをひとつにまとめて縫い上げる「本流(ほんりゅう)」と呼ばれる工程。 「頭の中で人体のカーブをイメージしながら縫うのが大切です。さらに湿度や糸によって変化する生地の収縮率を計算したり、箇所に応じてテンションを調整したりする必要もあります。何より本流はみんなが縫い上げたパーツをひとつにする重要な工程なので、長年やっていても緊張感を感じます」 各工程のミスを見つけるのも岩本さんの仕事。 「とにかく何度もチェックを繰り返すこと。これが品質の向上につながります」

「縫製は繊細な作業なので、体調や精神状態も影響します。だから、日々、心身のコンディションを整えることにも努めています」
「梅雨の時期などは湿度によって生地が伸びてしまう。その伸びも頭に入れて縫わなければいけません」

立体の匠 福田恵介「テーラーメイドの立体感は 丹念な仕上げの賜物です」

工場の首脳陣が信頼を置く 若きお化粧師

福田恵介(31)
ふくだ けいすけ●武雄市出身。地元の高校を卒業後、スーツ作りの道へ。アイロン技術の非凡な才能を見出され、若くしてお化粧を任される若手のホープ。趣味は釣りで、最近はイカ釣りに夢中。

縫製後のスーツをアイロンでプレスする工程は、シワを伸ばして生地の目を整えるだけなく、人体の曲線に沿うように立体感を生み出す重要な工程だ。オンリーファクトリーでは、パーツごとにアイロンでのプレスを行い、立体感を高めているが、福田さんの役目は「お化粧(おけしょう)」と呼ばれる最後の仕上げ。 ベテランの職人のもとで技術を磨き、7年目にこの役目を任された。この作業には、手先の技術はもちろん、頭の中で人体の構造を正確にイメージできる感覚が欠かせないという。 「立体感は着心地や見栄えを大きく左右する要素です。私たちの業界では、スーツの生地の目がきりっとして見栄えがいいことを“ツラが立つ”というんですが、そんなスーツを目指して仕上げています」

「工場には定期的にお客様の声が届きます。よろこびの声を聞いたら、この仕事をやっていてよかった、と思います」
手間のかかる工程だが、マシンを使ったプレスよりも、手持ちアイロンのほうがより人体の曲線に近くなるという。「オンリーのスーツは立体感が生み出す見栄えのよさもウリのひとつ。特にお客様の目につきやすい衿や袖の仕上げには気を遣います」

湿度の匠 喜多和美「見栄えがよくて、型崩れがしにくい。その秘密は徹底した加湿にあります」

20年以上のキャリアを持つ湿度の名ディフェンダー

喜多和美(60)
きた かずみ●嬉野市出身。工場の創業時から在籍。スーツ製造の幅広い知識と技術を持つベテランは湿度の管理を担当する。趣味はサッカー観戦で、サガン鳥栖のサポーター。

湿度へのこだわりは、オンリーファクトリーの最大の特色だ。 「生地は乾燥すると状態が不安定になり、そのまま縫製すると、型崩れや縫製不良の原因になります。たとえば、雨の日などに生地が伸びると、芯地とズレて、型崩れが起きることも。ですから、スーツを作る段階で、生地を念入りに加湿してリラックスさせておくことが大切なんです」 そのため、工場内の湿度は特殊な加湿器によって常に60%に保たれている。これは工場の絶対ルールで、喜多さんは20年にわたって湿度の管理を行っている。 「工程でも、縮絨をはじめ、生地の裁断後、芯据え(前身頃と芯地をつける作業)の前、見返し据え(前身頃と見返しを仮留め)の前という4工程で加湿を行っています。こうすることで、生地の豊かな風合いが際立つ、型崩れのしにくいスーツが出来上がります」

裁断後の生地に純水を吹きかける。「このひと手間が仕上がりに影響します」
「芯据えと見返し据えの前にも湿気を与えます。一点一点職人が手で作業しています」
工場内の加湿には、半導体の工場で使われるウェットマスター社の超音波加湿器を使用している。「湿気の分子がタバコの煙より細かいため、スーツや機械に水滴がつきません。天井に10台設置しています」

クリースが半永久的に持続する!
シロセット加工を標準装備

テーラーメイドのパンツにはシロセット加工が施されている。これはウール生地に折り目やプリーツを半永久的にセットする形状記憶加工のこと。水濡れや着用によって折目やプリーツのシャープさが損なわれても、ハンガーに掛けて休ませれば、新品同様のシャープさが復活する。

型崩れを防ぐために、ジャケットの袖にもシロセット加工を施す。また、全国シロセット加工業協同組合の視察・技術指導を定期的に受けるなど、精度の高い加工を行っている。

コンピュータ制御のマシンを備えた工場が増える中、オンリーファクトリーは、職人の技や感性を重視したものづくりを続けている。その品質には定評があり、オンリーの新商品の開発やパターンの監修に加え、中国にある提携工場の指導・監修を行っている。

「私たちが手がけているのはオーダースーツです。既製品と違って一着ずつ生地やサイズ、仕様が異なるため、手間がかかりますし、作業には慎重を要します。ただ、その分、お客様にはスーツに深い愛着を感じていただけるはず。職人たちもみんなやりがいを感じています」(山口さん)

4万1800円から仕立てることができるオンリーのテーラーメイド。完成したスーツに袖を通してみれば、オンリーファクトリーの実力、いや日本のものづくりの力を感じることができるはずだ。

写真/上樂博之
構成・文/押条良太(押条事務所)
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