「こんな時代だもの、秋冬の生地だって軽くなくちゃ」
林さんは店のカウンター席に腰を掛けると、両手でスーツを広げた。まるで本の文字を読み取るように生地を見つめる。 「とにかく軽いってのがいいね。今どきの生地はこうでなくちゃ。がっしり目の詰まった英国風の生地もいいけれど、今、自分が着るなら、ついついこういう生地のほうに手が伸びますよ」
「着心地が軽いのも大切ですが、『軽やかに見える』というのも大切だと思います。見るからに重厚なスーツを着ていると、自分はともかく、周囲の人たちがくつろいだ気分になれませんから。その点、この生地は見るからに軽やか。梳毛と紡毛の混織生地だからなのか、表面は梳毛のようになめらかで、かつふんわりとしたふくらみがある。こうした視覚的な軽やかさって、秋冬用の生地で表現するのが難しいんです」
「軽いのに温もりがある。その両立が難しい」
林さんの興味をそそったようだ。席を立つと、ジャケットに袖を通した。 「アンコン仕立てだけあって、まるでカーディガンのような着心地です。ただ、こうしたアンコン仕立てのスーツって、生地が本当に大切なんです。重い厚手の生地だと、仕立ての軽さが損なわれてしまうし、かといって、薄手の頼りない生地だと、大人が着るのにふさわしくない。その点、この生地は軽いのに、適度なふくらみがあって、秋冬の生地らしい温もりが感じられる。つまり、仕立てと生地のコンセプトがきちんと調和しているんですね」
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